(社)天然記念物北海道犬保存会
小樽支部/北村 直行
平成22年2月に江別で開催された冬季本部展で我が家の雄勝・小樽光洋荘(呼び名 ハク)が
「優一席」の評価を頂き牡組全犬最優勝を果たすことができましたことは私にとって大きな喜びでありました。
またハクを応援していただいたご犬友の皆様にも厚く御礼申し上げます。
ハクは一昨年の秋季本部展において特良一席の評価により牡組全犬最優勝を獲得し、
本部参考犬の称号を頂きましたが、その際「今後、更なる上位の評価を目指し犬体の完成・充実に向けた運動・鍛錬を期待します」と、
審査員の佐藤先生から講評いただいたのが、今回の優一席への挑戦のきっかけとなりました。
我が家のハクこと雄勝・小樽光洋荘は平成17年6月の11日に父、雄冬・札幌定山荘、母、百四十五優女・
小樽合羽井の仔として我が家の犬舎で誕生いたしました。生れた仔は四匹で牡が三つ、牝ひとつの四頭兄妹でした。
母犬の百四十五優女は合羽井さんの所から来た筋の良い牝で、展覧会に出陳もと考えておりましたが、
性格にややシャイなところがあり繁殖に使うことになりました。ちなみに母犬である百四十五優女の同胎牡には、
平成20年の春季本部展で本部参考犬になった百六十九太狼・小樽合羽井や平成19年の冬季本部展の獣猟競技大会で
獣猟競技本部参考犬になった百七十一太狼・小樽合羽井がおりますので優秀な一族です。
父犬は皆様も良くご存知の同じ小樽支部・山本眞樹氏が所有する雄冬・札幌定山荘で平成17年の春季本部展・本部参考犬であります。
生れた仔犬のうち牡を残して展覧会に・・・と考えておりましたので、生後四十五日目ころだったでしょうか、
私と妻、それに父犬雄冬の持ち主の山本眞樹氏の三人で残す仔犬を選んだ記憶があります。
その時のハクは、体こそ大きくありませんでしたが額の大きな仔犬で、山本氏が「これだ」ということで決まり、
あとの牡二匹は函館と恵庭に、そして牝は函館に旅立ちました。
ハクの血統名は雄勝・小樽光洋荘で、皆様から「ゆうしょう」と読んで頂いておりますが、本当は「ゆうかつ」と読みます。
「ゆう」は父、雄冬の「雄」から、「かつ」は妻の名の「勝子」から一字をとり「雄勝」と命名いたしました。
ハクは順調に育ち平成17年の秋季本部展仔犬一部牡組が初出陳でしたが、そのときは二席で、この年はその後二度出陳いたしました。
明けて平成18年は二月の冬季本部展からハクを出陳しましたが、
初めて一席を獲得したのは4月の札幌支部展の幼犬牡組で、この時は非常に嬉しかったことを記憶いたしております。
ハクは餌に気難しいところがあり、普通の炊き餌のように魚などをご飯に混ぜ込んで与えても、すぐ食べ切らない事が多かったので、
ご飯の上に魚などを乗せる今様で言うトッピングスタイルや、煮干を加えてみたり、食欲増進剤を与えてみたりと試行錯誤の連続でありました。
そのような餌の喰い込みの渋さの関係か、幼犬から若犬の前半にかけてハクの体はやや華奢なところがあり、
展覧会では上位犬の後塵を拝することがありましたが、それでも平成18年小樽市で開催された春季本部展幼犬牡組で一席獲得のほか、
札幌支部展、江別支部展などで優勝し、私を楽しませてくれました。
この頃のハクの運動ですが、バイクで我が家の前にある長い急な坂道を駆け登り、
坂の上にある造成地でひたすら鍛錬の日々を過ごしておりました。
ハクを札幌支部の古川実氏のところに預けたのはハクが一歳を過ぎた若犬になってからですので平成18年の秋くらいだったと思います。
古川実氏による北海道犬の繁殖、飼育管理、ハンドリングについては、斯界では、すでに定評のあるところですが、
以前から私が所有していた犬の管理をお願いし、そのキメ細やかな飼育管理とハンドリング技術に信頼を寄せていたからでした。
長沼町の古川氏のもとに行ってからのハクは、古川氏の所有する沢山の犬の中で揉まれ修行したせいか、
私が様子を見に行くと、幼犬時代の頃と違って随分と逞しくなったように思われました。
平成18年の秋からクラスが上がり若犬牡組として展覧会に臨んだハクでしたが恵庭支部展、小樽支部展、そして秋季本部展と、
いずれも二席で秋の展覧会シーズンを終了いたしました。
明けて平成19年の春シーズンは4月の岩見沢支部展からハクを若犬牡組で出陳いたしましたか、
徐々に充実してきたハクは、この岩見沢支部展を皮切りに、札幌支部展、江別支部展と一席を獲得し、
四戦して三勝という好成績でこの年の前半のシーズンを締めくくってくれました。
6月生れのハクは7月の鵡川支部展から未成犬クラスに昇級しましたが、さすが強豪の揃っている未成犬クラスでは二席に終わり、
続いて出陳した秋季本部展でも同じく二席で、この年の秋シーズンを終了いたしました。
年明けての平成20年は二月の冬季本部展からハクを出陳いたしましたが、二歳半を過ぎたハクは、
この頃から犬体の充実度が著しくなり、北海道犬の牡としての顔貌表現、体躯の張り、
気迫など未成犬にふさわしい成長を遂げたように感じられ、私も密かに期待を寄せておりました。
平成20年の2月24日に恵庭で開催された冬季本部展は忘れることが出来ないものになりました。前日午後から暴風雪が猛威を振るい、
夜には高速道路、国道が通行止めとなり、千歳空港も閉鎖するという事態となりました。
冬季本部展当日は暴風雪がやや収まり、前日閉鎖されていた高速道路も開通した為、私たちは割合スムーズに恵庭の会場に到着しましたが、
待てど暮らせどハクを預けている古川氏が到着しません。やきもきしているうち開会式が始まり、幼犬から個体審査も開始されました。
ようやく古川氏とハクが会場に到着したのは個体審査がかなり進んでからだったと思います。
到着した古川氏に聞いてみると「自宅周辺が暴風雪で出来た大きな吹き溜まりで家に閉じ込められた。
知人に連絡を取り、除雪の入っている近くまで来てもらい、必死の思いで雪山をこいで何度も犬を運び、
ようやく会場にたどり着いた」とのことでした。
さて、この大変だった冬季本部展でのハクは、未成犬牡組で出陳し、
古川氏のハンドリングで何事もなかったように一席を獲得してくれました。
平成20年春シーズンのハクは、この冬季本部展を皮切りに、函館、札幌、岩見沢の各支部展を連勝。
そして埼玉に遠征しての春季本部展では未成犬牡組で一席を獲得し、冬季と春季の本部展を連覇する事ができました。
また、埼玉の春季本部展から戻ってすぐの六月の日高支部展では、未成犬牡クラスながら牡組全犬最優勝を果たすことが出来、
これはハクが獲ってくれたはじめての「優勝旗」でしたので、感慨深いものとして記憶に残っております。
そんなことでハクの平成20年度春の展覧会シーズンは充実した結果に終了したのでした。
平成20年の秋の展覧会シーズンから、ハクは成犬牡組にクラスが上がりましたが、
飼い主の欲目かもしれませんが、この頃のハクには牡の北海道犬としての充実度が高まってきたように私は感じられました。
成犬牡組にクラスが上がったハクを出陳したのが九月の小樽支部展でした。
この日の成犬牡組の出陳頭数は五頭と少なかったものの、強豪犬が出陳されており、また成犬牡組昇級後、
初めての展覧会という事で不安もありました。
しかしハクは私の不安を吹き飛ばすように堂々とリンクを歩き、
牡組全犬最優勝して二本目の優勝旗を獲得してくれました。
その後、ハクは栗山支部展も全犬最優勝で連覇し、いよいよ10月の秋季本部展に向かうこととなりました。
迎えた平成20年の秋季本部展は札幌は百合が原での開催です。成犬牡組の出陳頭数は8頭でした。
個体審査も無事終了し、いよいよ比較審査に入りました。本部展では月齢の若い順にゼッケン番号をもらいますが、
成犬牡組になったばかりのハクの並び順は前から二頭目でした。
比較審査中盤、早々と先頭に出たハクでしたが、終盤に入って、
ややダレてしまったのかハンドラーの古川氏の方ばかり見て私をヒヤヒヤさせました。
比較審査の終盤には審査員の先生方がリンク中央に全員集まり協議しておりましたが、
そのまま「決定しました。特良一席144番」と放送が入り、ハクの成犬牡組一席が決定いたしました。
主審を担当した佐藤優先生から「悍威に富み、気迫良く充実し、体躯構成無難にして前勝ちの感を示し、
骨格は密で筋腱も良く鍛錬されていました。(中略)
今後更なる上位の評価を目指し犬体の完成・充実に向けた運動・鍛錬を期待します」との講評を受けました。
その後の全犬審査でハクは牡組全犬最優勝を獲得し、北海道犬保存会の最高の名誉である「本部参考犬」の称号を頂戴することが出来、
私の犬人生の中で最も嬉しく感激した日となりました。
平成20年の秋季本部展で本部参考犬になったハクでありましたが、私の頭には佐藤先生が講評の最後に言われた
「今後、更なる上位の評価を目指し・・・」という言葉がありました。
この「更なる上位の評価」というのは、会員の皆様も良くご存知の「評価 優」のことでありまして、
その中身は「優の評価を与えるものは北海道犬として範ではなければならない。・・・」という
北海道犬の評価ランクとしては最も高いものであります。
特良評価の本部参考犬が「評価 優」へ挑戦した最近の例では、四年前の冬季本部展が最後と記憶しています。
そこでハクを預かってもらっている古川氏に、この事を相談したところ「一緒にやりましょう」と快承を得、
ハクの「優」獲り計画が始まりました。
ハクは平成20年の秋に本部参考犬を獲得したのち、長沼の古川氏の許から小樽の我が家に戻りました。
古川氏との打ち合わせでは、ハクを更に鍛錬し「優一席」にふさわしい犬になったら、
その時挑戦しようという事でありましたので、特に、いつの本部展で優一席へ挑戦とは決めておりませんでした。
年明けて平成21年の雪解けからハクを本格的に鍛え始めましたが、毎日、バイクで我が家の前にある急坂を駆け上がり、
急坂の上にある造成地での鍛錬の日々過ごしました。
ハクは若犬時代から本部参考犬を獲得するまで古川氏のところに居ましたので、久し振りにハクと一緒に走るのは、
幼犬時代以来となり、それは楽しい日々でした。
辛かったのは、既にハクが本部参考犬になっていた為、展覧会に出陳出来ないということでしょうか。
展覧会で他の犬と我が家の犬を見比べるということは、犬を客観的に見るという意味で大切なことなので、それが出来ない事は少々大変でした。
夏〜秋とハクの鍛錬は続き、その間、幾度か古川氏にも見てもらいましたが、ハクが長沼の古川氏の許に行ったのは、
その年の12月中旬だったと記憶しております。
年明けて平成22年。冬季本部展は江別での開催でした。成犬牡組の出陳頭数は九頭で、
ハクは155番のゼッケンでありました。個体審査も終了し、いよいよ比較審査に入りました。
古川氏のハンドリングで隊列の後方から走り始めたハクは徐々に順位を上げてゆき、比較審査の終盤には先頭に進出しておりました。
そして比較審査の終盤、審査員の先生方が全員リンクで協議の後、ハク一頭がリンクの中央に呼び出されました。
「評価 優」の審査です。審査員全員による再度の個体審査の後、リンク中央で審査員長の篠澤先生に向って常歩で歩きました。
隊列に戻り最後の一周の後、場内放送が告げたのは「決定しました。優一席 155番」というアナウンスでした。なんという感激でしょう。
二月の午後の陽の長い影をひいてリンクを歩くハクを見ながら、思わず仔犬時代から今日までハクと一緒に全道各地、
本州まで脚を伸ばして展覧会を巡り歩いた想いが頭の中を過ぎりました。
「本部参考犬認定」それに「評価 優一席」という二つの大きなものを頂戴したハクは、
これで名実とも日本一の北海道犬になれた思いますが、これもひとえに、ご声援して頂いた沢山の
ご犬友の皆様のお陰と深く感謝いたしております。
それから、若犬時代から、ハクの飼育管理・ハンドリングをお願いしていた
札幌支部の古川実氏には約三年に渡り本当にお世話になりましたが感謝の気持ちで一杯であります。
また、古川氏の奥様には、ハクを自犬舎の犬同様に愛情をもって接して頂き、
展覧会でも付きっ切りでお世話いただいた事を深く感謝申し上げます。
この後、ハクは種牡として過ごしてまいりますが、父犬の雄冬・札幌定山荘、
そして仔の雄勝・小樽光洋荘に続く、親子三代の本部参考犬誕生を目指して頑張ってゆきたいと思います。
最後に、(社)天然記念物北海道犬保存会と会員の皆様の益々ご発展を祈念してお礼の言葉と致したいと思います。